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イラスト、英語に関するエッセイブログ。DME、多読なども。
生涯を通して、わたしの心にのこるであろうことをものがたりにしました。
どうぞお読みください。
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2013.01.20 | | 短編小説
スイートルームのバスタブに置かれたシャンパングラス。
洗面台の横に置かれた濡れたバスタオル。
「まただよ。まーたいなくなっちゃった」
俺はそれらを一個一個手で持って、少し持ち上げては、戻した。
電話口でコシノが面倒くさそうな声を上げる。
「そうだろうと思ったよ」
「状況からして、シャンパン飲んでひとっ風呂浴びて、すっきりして帰っちゃったんだな」
俺が少し仕事に出ているあいだに、リリィはまたいなくなった。
華奢なかんじの黒いワンピースにコート、それからクラッチバック。
それだけを持って、彼女はどこかへ行ってしまう。
リリィはそれは気持ちよく酒を飲む女だ。
きょうのシャンパンだって、値段なんか知りもせずに美味しく飲んだだろう。
それを想像して俺はつい笑ってしまう。
「お前もよくやるよ、ほんとに」
「なにが」
「なんの仕事してるんだよ、その女」
「知らないよ」
リリィは気が向かないことは何もしない。
気が向かない電話は取らない。
ときどき電話に出たかと思えば海外にいたりする。
「腹立たねぇの?」
コシノの声は大分眠そうだ。もう午前一時なのだ。
リリィはこんな時間でも、平気でどこかへ行く。
「立たないねー」
リリィの話すことは面白いし、軽薄さがない。
一度だけ見た体は本当に綺麗だった。
何より、彼女には嘘がない。楽しくない時に楽しいとか言わない。
俺といるのがつまらなくなれば彼女はいなくなる。
「まぁお前の人生だからね、知りませんけど」
リリィがいた形跡をながめているうち、俺はあることに気づいた。
「あ」
「どした」
いつも置いてあるものが、きょうに限ってはなくなっている。
「すごいぞ、大記録だ」
「なにが」
繰り返しになるが、リリィは気が向かなければやらない女だ。
気に入らないものは置いて帰る。
気に入らないのに、気を使って、或いは勿体ないからと貰っておくみたいな真似はしない。
「あいつ、俺がやった口紅持って帰ったぞ」
俺は心底、嬉しかったし、してやったりだと思った。
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首ったけになっている男性ほど
楽しそうで馬鹿らしくて、見ていてわくわくするものはありません。
2012.11.12 | | 短編小説
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